ゴヤ、ベラスケス、ルーベンス……。世界有数の芸術作品コレクションを誇るスペインの国立プラド美術館で、一人の日本人専門家が今年4月、活動10周年を迎えた。和田美奈子さん(50)。素描やエッチング、写真など、同館が保有する3万点以上の紙をベースにした作品の劣化を防ぎ、未来に伝える「紙修復師」だ。新型コロナウイルス禍が深刻な被害をもたらすさなかでも、人類の芸術遺産によりそい続ける「紙の守り手」に思いを聞いた。【和田浩明/統合デジタル取材センター】 世界を飛び回った「黒衣」プラドの修復師たち 和田さんはプラドの修復課に勤務する、紙担当の2人を含む20人超の修復師や研究員の一人だ。「正職員でこの規模の修復チームを持っている所は世界にもありません。自らの収蔵作品は自らの職員にしか触らせないという方針の反映です」 芸術作品が脚光を浴びる「スター」だとすれば、修復師はその活躍を助ける「黒衣」とも言える。一