原発事故とアスベスト(石綿)禍には被害の構図が共通している。過去に地震や津波が繰り返し発生した地に原発を起き、研究者が再三、その危険性を警告していたにもかかわらず、虚構の「安全神話」の中で稼働を続けた。一方、石綿も戦前から有害だと分かっていながらも、その有用性、経済性から「管理して使えば安全」と国は十分な規制を行わず、約1千万トンを消費した。使用禁止は北欧に遅れること20年、ヨーロッパ諸国に遅れること10年以上たった実に2006年だ。 原発事故は「史上最大・最悪の公害」(宮本憲一・大阪市立大名誉教授)であり、石綿禍もまた「史上最大の産業災害」(同)である。筆者は2005年6月末、兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場内外で深刻な被害が発覚した、いわゆる「クボタショック」以降、各地で取材を重ねてきた。その成果を『死の棘・アスベスト』(中央公論新社、2014年)として刊行した。石綿はその使用状況の広が