優れたフィクション作品のすべてがそうというわけではないが、大ヒットを記録する――つまりは多くの大衆を引きつける――作品には、企画の当初は考えてもいなかった偶然をも巻き込む力を宿していることがたまにある。2015年から2020年にかけて、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が出会ってから別れるまで(厳密に言うと別れた後に一度再会するまで)の5年間の日々をクロニクル的に描いた坂元裕二脚本、土井裕泰監督の『花束みたいな恋をした』も、そんな作品の一つと言っていいだろう。 『花束みたいな恋をした』はコロナウイルスのパンデミックが本格化する直前の2020年初頭に撮影を終え、多くの人々が外出自粛を余儀なくされるようになっていった時期にポストプロダクションがおこなわれ、2021年1月29日、首都圏を中心に発出された2回目の緊急事態宣言の真っ最中に公開された。実はエピローグのナレーションでは間接的に今回のパンデミ