成瀬巳喜男監督の映画『めし』をDVDで見た。久方ぶりで見直して新たに気づいたことがあったので、それについてすこし書いてみたいと思った。 映画は1951年公開で、映画のなかの設定もほぼ同じ頃だ。大阪の庶民的で質素な長屋に住む上原謙と原節子の夫婦(おそらく実年齢とそれほど隔たりのない三十代前半~後半の年恰好)の家庭がおもな舞台となる。専業主婦である三千代(原節子)は、単調なおさんどんの繰り返しの日々にいささか倦んでいる。家計をやりくりするのにカツカツの夫・初之輔(上原謙)の安月給や、食事のときもろくに会話もしないで新聞から目を離さぬ夫に、こんなはずではなかったと結婚生活に幻滅さえ覚えているようだ。 そんなある日、夫の姪の里子(島崎雪子)が東京から家出をして転がり込んでくる。潑溂とした姿態と無鉄砲で自己中心的な考えをもつ「アプレゲール」の二十歳の女性だ。屈託もなく叔父に甘える里子のコケティッシュ