評者・東京都立大学准教授 佐藤 信 数にすることは、その背後にある物語を切り捨ててしまう。コロナ罹患(りかん)でも待機児童でも、個々人の大きな苦しみがデータ上では数字の1と表現される。中でも戦争の死者の場合、太平洋戦争での日本の戦没者が約310万人といわれても、個々の苦しみのイメージは湧きにくい。 と、数を見下すのはたやすい。ただ本書を紐解(ひもと)いて、数え上げてもらえないのはなおさら残酷だと考えさせられた。 死傷者を把握しデータ化する 無機質にみえて人間的な行為 本書は戦争の死傷者をデータ化する体制とその歴史を扱うが、個人的には死傷者を数える困難を詳述した第4章をまず読んでみてほしい。戦場で砲弾が飛び交う中、敵はおろか、味方の死傷者を数える余裕さえない。ところが、兵士を待つ家族のため、非人道的行為を法廷に持ち出すため、また時に戦況把握のため、死傷者の把握は必要だ。 本書は過去の多様な試