私たちは空想上の通帳をあいだにはさんで難しい顔をしていた。空想上のでないものをテーブルの上に置くことはなんだかできなかった。安全のためというより違和感のために、私たちはそれができないのだった。にぎやかな駅の前にはほとんど必ずあるようなチェーン展開のありふれたカフェのありふれたテーブルの上に個人名の通帳を置くことがどうしてか耐えられない。むきだしの通帳が似合うのは誰かのおうち、でなければ銀行のカウンタだけだと私は思う。 それは彼女が彼女の若いころに助けられた「おばさま」のために就職以来ずっと貯めていた預金で、今ではけっこうな金額になっていた。おばさまとは言うけれども血はひとつもつながっていない。わけあって血のつながった人間が誰ひとり彼女の身分を保障しないので、なにかというと保証になる人間を求められた若いころはとくに、彼女はおばさまに助けられていたのだった。おばさまは大胆な嘘だってついた。必要
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