「歩くという哲学」 [著]フレデリック・グロ 歩く。移動手段としてではなく、歩くことそれ自体。歩いているとさまざまなもの・ことが流れ込み、湧き出てくる。少し私自身のことを書かせてもらおう。私は歩くことを日課にしている。道端の小さな花が、木々の芽吹きが、鳥の声が、私を浸してゆく。私はときに低い山、取り立てて面白みのない山道を歩く。それでどうやら身も心も喜んでいるらしい。 その喜びを著者はこう語っている。「自分に出会い直すとか、本当の自分だの、失われたアイデンティティだのを取り戻すだとか、そういった話ではないのだ。歩くことによって、人はむしろ、アイデンティティという概念そのものから抜け出すことができる。」 本書は、歩くことについて、そして歩くことが決定的な意味をもっていた文学者や哲学者たちについて書かれた33のエッセイからなる。「ただ身体的な努力を繰り返しているだけで、精神に『空き』ができる。
