仮想儀礼(上・下) [著]篠田節子[掲載]2009年2月15日[評者]瀬名秀明(作家、東北大学機械系特任教授)■暴走する現代を新興宗教で描く傑作 意欲的に力作・良作を発表し読者を惹(ひ)きつける実力派が、ときおり鳥肌の立つような大ホームランをかっ飛ばす。すべての動作がぴたりぴたりと必然のように嵌(はま)り、打球は物理法則に従ってぐんぐん伸び、もはや誰も手がつけられない。長年のファンは大喝采で迎えるのみだ。本書は篠田節子の最高傑作というだけに留(とど)まらず、新興宗教を扱うあらゆるエンターテインメントの頂点へと駆け上った。 物語の始まりは2001年。作家を夢みて仕事も家族も失い路頭をさまよっていた鈴木正彦は、やはり事業に失敗していた元編集担当の矢口誠と偶然再会した夜、ブラウン管の中に世界貿易センタービルの崩壊を目撃する。実業の時代は終わったと感じたふたりは衝(つ)き動かされるように新興宗教の