日本のストーリーまんが史上、最も重要なまんが家のひとりと考えられている手塚治虫は、昭和22(1947)年に出版された描き下ろし単行本『新寶島』(原作・構成/酒井七馬、作画/手塚治虫)によって、その名が広く知られるようになったといわれる。『新寶島』が当時の読者に与えた強い印象は、藤子不二雄などの証言などに残されており、日本のまんが史を考える上で、よく言及される作品である。特に、冒頭の自動車の疾走シーンは、藤子の証言にもあるように、多くの読者や論者の注目を集めてきた。 本文のページをめくって、僕は目のくらむような衝撃を感じた。 見開きの右ページの上に、“冒険の海”へという小見出しがあって、その下の一コマに、鳥打帽を小意気にかぶった少年がオープンスポーツカーを右から左へ走らせている。(中略) こんな漫画見たことない。二ページ、ただ車が走っているだけ。それなのに何故こんなに興奮させられるのだろう。