「ひさかたの」は「光」、「たらちねの」は「母」にかかる枕詞で、それ自体には直接の意味はない――。私たちが古文の授業で習うそんな“常識”を真っ向から否定して、万葉集にちりばめられた枕詞から古代日本人の姿を生き生きと立ち上がらせた。 著者は昭和に生きた在野の考古学者で、福岡県・平原遺跡の銅鏡(国宝)の発見で知られる。過激なアカデミズム批判を展開したため、その学説と業績はしばしば学界の黙殺に遭った。本書も従来の国文学者に対するあまりに激烈な批判ゆえ30年前に出版中止となったが、今年3月に他界した妻イトノの執念が、この畢生の大作を世に送り出した。 驚くべきは、考古学にとどまらないその学識の広さと深さだ。漢字学や植物学までを総動員して、一つひとつの枕詞が示す暗喩を解き明かしていく。たとえば意味不詳とされた「山」にかかる枕詞「あしひきの」は「山に足が引かれる」、つまり古代の男性が山での狩猟に覚える魅惑