【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(3) はじめに アルコールは人類が遭遇した最古の依存性薬物ですが、人類はそのすばらしさとともに、早くから危険性にも気づいていました。 紀元前400~200年頃に編纂されたといわれる『戦国策』には、中国における酒の起源にまつわる伝説が記されています1。中国最古の王朝、夏(紀元前2070年頃~紀元前1600年頃)の始祖禹(う)王のもとに、北方異民族の儀狄(ぎてき)なる人物がやってきました。曰く、「穀物から酒なる飲み物を初めて造ったので、それを献上したい」というのです。禹は酒を一口飲んで、あまりのうまさと酔い心地に驚きました。しかし、すぐに我に返り、「後世、この美味にして陶然とさせる飲み物によって国を滅ぼす者が出るであろう」と述べ、以降、酒を断ち、儀狄を追放したそうです。 一方、古代ギリシアの都市、アテナイに住む人々は、「酒を断つ」のではなく「うまくつきあ