ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (16)

  • 認知言語学から小説の面白さに迫る『小説の描写と技巧』

    小説の面白さはどこから来るのか? 物語のオリジナリティやキャラクターの深み、謎と驚き、テーマの共感性や描写の豊かさ、文体やスタイルなど、様々だ。 小説の面白さについて、数多くの物語論が著されてきたが、『小説の描写と技巧』(山梨正明、2023)はユニークなアプローチで斬り込んでいる。というのも、これは認知言語学の視点から、小説描写の主観性と客観性に焦点を当てて解説しているからだ。 特に興味深い点は、小説の表現描写が、人間の認知のメカニズムを反映しているという仮説だ。私たちが現実を知覚するように、小説内でも事物が描写されている。 認知言語学から小説の描写を分析する 通常ならメタファー、メトニミーといった修辞的技巧で片づけられてしまう「言葉の綾(あや)」が、ヒトの、「世界の認知の仕方」に沿っているという発想が面白い。これ、やり方を逆にして、認知科学の知見からメタファーをリバースエンジニアリングす

    認知言語学から小説の面白さに迫る『小説の描写と技巧』
  • システム開発に銀の弾丸はないが「金の弾丸」ならある『人が増えても速くならない』

    例えばソフトウェア開発において、 人が増えても納期が短くなるとは限らない 見積もりを求めるほどに絶望感が増す 納期をゴリ押すと、後から品質はリカバリできない これを見て、「だよねー」「あるあるw」という人は、書を読む必要はない。 プログラミングは人海戦術で何とかならないし、「厳密に見積もれ」というプレッシャーは見積額を底上げするし、納期が優先されて切り捨てられた品質は、技術的負債として残り続ける。経験豊富なエンジニアなら、大なり小なり、酷い目に遭ってきただろうから。 だが、これらを理解できない人がいる。 要員を追加して、手分けしてやれば一気に片付くはず 厳密にやれば、見積りバッファーはゼロにできる 品質のことはリリース後にじっくりやればいい ……などと気で考えている。これは、ソフトウェア開発とはどういうものか、特性を知らないからだ。こんな無知な人間が経営層にいたり、顧客の代表となった場

    システム開発に銀の弾丸はないが「金の弾丸」ならある『人が増えても速くならない』
  • ルーク・スカイウォーカーの初登場までに17分もかかった理由『脚本の科学』

    面白い物語の法則として「主役はできるだけ早く登場させて印象づけろ」というものがある。 にも関わらず、最初の『スター・ウォーズ』はこのルールを破っている。小さな宇宙船を追跡する超大型戦艦から始まり、悪の親玉に捕まるお姫様を描き、辛くも脱出するロボットのコンビを描く。 メイン・キャラクターであるルーク・スカイウォーカーが出てくるのは、映画が開始して17分が経過してからになる。 一方、『スター・ウォーズ』のオリジナルの脚では、4ページ目からルークが紹介されるシーンがある。ほぼ冒頭から登場するのだが、このシーンは映画に入っていない。脚家のジョージ・ルーカスは慣習に従ってルークを冒頭で出しているが、監督のジョージ・ルーカスはそうしなかった。 なぜか? 様々な説が考えられるが、『脚の科学』によると、「その必然性が無かったから」になる。 いきなり始まる怒涛のバトル&追跡劇で息つく暇もない観客は「逃

    ルーク・スカイウォーカーの初登場までに17分もかかった理由『脚本の科学』
  • この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    「いつか読もう」はいつまでも読まない。 「あとで読む」は後で読まない。 積読をこじらせ、「積読も読書のうち」と開き直るのも虚しい。人生は有限であり、が読める時間は、残りの人生よりもっと少ない。「いつか」「そのうち」と言ってるうちに人生が暮れる。 だから「いま」読む。 10分でいい、1ページだっていい。できないなら、「そういう出会いだった」というだけだ。「いま」読まないなら、「いつか」「そのうち」もない。 に限らず情報が多すぎるとか、まとまった時間が取れないとか、疲れて集中できないとごまかすのは止めろ。新刊を「新しい」というだけの理由で読むな。積読は悪ではないが、自分への嘘であることを自覚せよ。「いま」読むためにどうしたらいいか考えろ。「」にこだわらず読まずに済む方法(レジュメ、論文、Audible)を探せ。難解&長大なら分割してルーティン化しろ。こちとら遊びで読書してるんだから、仕事

    この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • ファンタジーの最高傑作『氷と炎の歌』

    夢中にさせて寝かせてくれず、ドキドキハラハラ手に汗握らせ、呼吸を忘れるほど爆笑させ、ページを繰るのが怖いほど緊張感MAXにさせ、いしばった歯から血の味がするぐらい怒りを煽り、思い出すたびに胸が詰まり涙を流させ、叫びながらガッツポーズのために立ち上がるほどスカッとさせ、驚きのあまり手からが転げ落ちるような傑作がこれだ。 この世でいちばん面白い小説は『モンテ・クリスト伯』で確定だが、この世でいちばん面白いファンタジーは『氷と炎の歌』になる。 書いた人は、ジョージ・R・R・マーティン。稀代のSF作家であり、売れっ子のテレビプロデューサー&脚家であり、名作アンソロジーを編む優れた編集者でもある。 短篇・長編ともに、恐ろしくリーダビリティが高く、主な文学賞だけでも、世界幻想文学大賞(1989)、ヒューゴー賞(1975、1980)、ネビュラ賞(1980、1986)、ローカス賞(1976、1978

    ファンタジーの最高傑作『氷と炎の歌』
  • この本がスゴい!2020

    今年の一年早くない? トシ取るほど時の流れを早く感じるのは知ってるけど、今年は特に、あっというま感がすごい。恒例のこの記事、もう書くの!? と思ってる。 毎年、「人生は短く、読むは多い」と能書き垂れるが、今年は、「人生は加速的に短く、読むは指数的に多い」と変えておこう。 そして、昨年と比べると、世界はずいぶん変わってしまった。 基的に外に出ない、人と会わないが普通になり、マスク装備が日常になった。オフ会や読書会でお薦めしあった日々は過去になり、代わりにZoomやチャットでの交流が増えた。 ポジティブに考えると、そのおかげで、読み幅がさらに広がった。わたし一人のアンテナでは、絶対に探せない、でも素晴らしい小説やノンフィクションに出会うことができた。お薦めしていただいた方、つぶやいた方には、感謝しかない。 さらに、今年はを出した。 ブログのタイトルと同じく、[わたしが知らないスゴは、

    この本がスゴい!2020
  • 本に埋もれて本と生きる『本の虫の本』

    なりたくて好きになったのでないから、止めたくて止められるものでもない。 活字中毒という便利な言葉があるが、スマホに魅入るのとは違うので、中毒なのかもしれぬ。書によると、中毒にはレベルがあるらしい。 好きのレベル(あるいは深刻度) 好き 50冊ぐらい家にある 読書好き 100~200冊 書豚(しょとん) 千冊くらい(家の階段にも積まれている) 書狼(しょろう) を並べるためだけに家を買う 書痴(しょち) 世の中に5冊だけのを全部買い占めて、4冊を破って捨てる よかった、まだ「読書好き」で済んでる。「階段に積んでる」「床が抜けた」という話も聞くが、のために部屋を借りたり家を買うようになれば、書物狂といっていい。だが、それは読書というよりも、むしろ「資料」であり「在庫」なのかもしれぬ。 これは、が好きで好きでたまらない「の虫」たちのエッセイ集。新刊書店、古屋、装幀、ジャ

    本に埋もれて本と生きる『本の虫の本』
  • この本がスゴい!2013

    人生は短く、読むは尽きない。 せめて「わたし」が知らない凄いと出合うべく、それを読んでる「あなた」を探す。このブログに込めた意味であり、このブログを通じて数え切れないほど「あなた」に教えてもらった。 ともすると自分の興味を森羅と取り違えがちなわたしに、「それがスゴいならコレは?」とオススメしてくれる「あなた」は、とても貴重で重要だ。そんな「あなた」のおかげで、ネットやリアルを通じて出会い、ここ一年で読んできた中から選りすぐりを並べてみる。 なお、ここでの紹介は氷山の一角、一番新しくアツいのは、facebook「スゴオフ」を覗いてみてほしい。読まずに死ねるか級がざくざくあるゾ。 フィクション ■ 『東雲侑子は短編小説をあいしている』 森橋ビンゴ(ファミ通文庫) ラノベを読むのは、存在しなかった青春を味わうため。 「いいおもい」なんて、なかった。劣等感と自己嫌悪に苛まれ、屈した日々が終

    この本がスゴい!2013
  • この本がスゴい!2015

    「いつか読む」は一生読まない、いつ読むの? 人生は短いのに、読みたいが多すぎる。残り全部を注いでも、いまのリストは読みきれぬ。己の変化を確かめる、再読リストも増えている。今際に後悔しないため「読んでから死ね」が優先なのに、積まれるスピードさらに上。を通じて出会った人から教わったがまたスゴい。オフ会は危険な場、積読山がマシマシだ。それでも読むしかない、それも今しかない。 「このがスゴい!2015」は、この「今」を積み上げた一年間からピックアップしたもの。ネットや読書会を通じてお薦めされた作品もあれば、書店や図書館で「呼ばれた」もある。非常に愉しいのは、リアルで話し込んでいると、記憶の底からリレースイッチのようにタイトルが"発火"してゆくところ。完全に忘れてた、思いもよらない作品につながってゆく様は鳥肌もの。 世界は対話で拡張する。わたしが知らないスゴを"発火"させる、あなたが凄い

    この本がスゴい!2015
  • この本がスゴい!2016

    人生は短く、積読山は高い。 せめては「死ぬまでに読みたいリスト」を消化しようとするのだが、無駄なあがき。割り込み割り込みで順番がおかしくなる。読了した一冊に引きずられ、リストは何度も書き直される。 重要なのは、「あとで読む」は読まないこと。「あとで読む」つもりでリツイート・ブックマークしても読まないように、あとで読もうと思って読んだ試しはない。だから、チャンスは読もうと思ったそのときしかない。実際に手にとって、一頁でも目次でもいいから喰らいつく。勢いに任せて読みきることもあれば、質量と体力により泣く泣く中断するもある。かくして積読山は標高を増す。 ここでは、2016年に読んだうち、「これは!」というものを選んだ。ネットを通じて知り合った読書仲間がお薦めするが多く、それに応じてわたしのアンテナが変化するのが楽しい。わたし一人では、数学経済学歴史学、進化医学や認知科学の良を探し出せな

    この本がスゴい!2016
  • この本がスゴい!2017

    人生は短いのに、読みたいは多すぎる。 生きてる時間ぜんぶを費やしても読みきれないを抱え、それでも新しいに手を伸ばそうとする愚者とはわたしだ。ただ「新しい」というだけで、何がしかの価値があると思い込み、財布をはたく。エラい人が誉めてたという理由だけで、読むべきだと思い込み、脊髄反射する。そして読まない。「あとで読む」とレッテルを貼って、あとで読まない。 かくして積読山は高くなる。 かつてはに囲まれた生活を何やら高尚なものだと考えて、「に埋もれて死にたい」などとつぶやいたことがあるが、恥ずかしい。救いようのない馬鹿とはわたしだ。読書趣味であり代謝であり経験だ。その候補だけを増やしても、何も、なにも変わっていない(ボクは沢山のを持っているという自意識を除いて)。 そんな山から発掘し、紹介してきたスゴ(凄い)のなかから選りすぐりをご紹介しよう。わたしの趣味と代謝と経験に照らし

    この本がスゴい!2017
  • この本がスゴい!2018: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    まとめ すごく長くなったので、まとめる。まず、今年のベスト。 このがスゴい!2018のラインナップ。 このがスゴい!2018の一覧は以下の通り。 ◆フィクション 『ランドスケープと夏の定理』高島雄哉(東京創元社) 『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ(河出書房新社) 『寿司 虚空編』小林銅蟲(三才ブックス) 『直線』ディック・フランシス(ハヤカワ文庫) 『ブッチャーズ・クロッシング』ジョン・ウィリアムズ(作品社) 『槿』古井由吉(講談社文芸文庫) 『平家物語』古川日出男(河出書房新社) ◆ノンフィクション 『知の果てへの旅』マーカス デュ・ソートイ(新潮クレスト・ブックス) 『愛とか正義とか』平尾昌宏(萌書房) 『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』吉川浩満(河出書房新社) 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』ふろむだ(ダイヤモンド社) 『文学

    この本がスゴい!2018: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 物理学と数学で解ける問題と解けない問題の間に「時間」が存在する『予測不可能性、あるいは計算の魔』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    天体の運動から粒子の振る舞いまで予測する科学は素晴らしい。学ぶ前は、無邪気にそう考えていた。 学ぶほど、物理学と数学は相性抜群であり、ガリレオの言う通り、自然は数学の言葉で書かれていることが分かる。だが、科学が発展することで、あらゆる現象が説明できるかというと、そうではない。それは、「まだ」未知であるだけでなく、どんなに科学が発達しても解決できない問題が、現時点でも明らかになっている。 「時」とは何か その最たるものが「時」である。時とは何か? アウグスティヌスを用いだすまでもなく、「私はそれについて尋ねられない時、時間が何かを知っている。尋ねられる時、知らない」なにかである。 数学と物理学をめぐる最適化問題を読み解いた『数学は最善世界の夢を見るか』のイーヴァル・エクランドが、数学と物理学で「時」を定義づけようと試みたのが書になる。わたしの問題意識に真っ向勝負しているため、たいへん興味深

    物理学と数学で解ける問題と解けない問題の間に「時間」が存在する『予測不可能性、あるいは計算の魔』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 物語を書く「前に」知るべきこと『工学的ストーリー創作入門』

    もちろん葬った原稿が沢山ある。 うぬぼれ&創作欲に突き動かされ、勢いだけで書き始め、そのうち行き詰まる。なんとなく良くないのは分かるが、それが人物なのか構成なのかシーンなのか分からない。描写を直すと人物が色褪せ、シーンを変えると構成が崩れる。結果、原稿を書くたびに一からやり直すハメになる。最後まで書き上げられるかは運まかせで、最後まで行けた試しがない。 問題は書く「前に」ある これは、やり方が間違っている。何年かけても完成しない。『工学的ストーリー創作入門』を読まなくても知っていたが、書でとことん思い知らされる。わたしの努力は無駄ではないかもしれないが、非常に効率が悪い。問題は、書くことそのものよりも、その「前に」存在している。 『工学的ストーリー創作入門』(Story Engineering)は、物語を書き始める「前に」知るべきことを整理するだけで、ストーリーは工学的に作り上げることが

    物語を書く「前に」知るべきこと『工学的ストーリー創作入門』
  • 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』がいかにスゴいか、このブログを例に説明する

    人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』がいかにスゴいか、このブログを例に説明する 「悪魔の書」かつ「賢者の書」 これを「悪魔の書」という人がいるが、激しく同意する。なぜならこれ、知らないほうが幸せだったかもしれないことが書いてあるから。あれだ、「力が欲しいか?」と問われて求めた結果、知らなくても良い世界に気づいてしまうから。 その存在すら知らないまま、普通に穏やかに生きるほうがよいとも言える(知らぬがホトケやね)。「なぜアイツが出世するんだ!?」「どうして私が認められないのだろう?」という現実から目をそらし、ささやかな慰めを見つけ出し、折り合いをつける。そんな平穏を求めるなら、書を読んではいけない。「アイツが出世&実力をつけていく理由」「私が認められにくい理由」が、これ以上ないほど、ミもフタもなく書いてあるから。 一方でこれ、万人が読んだほうがいいのかもしれない。

    『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』がいかにスゴいか、このブログを例に説明する
  • おっさんから若者に贈る「経験を買う」6冊: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    結論から言うと、経験は買える。 適切なタイミングで適切なと出会うことで、しなくてもいい経験や、身につけておくべき知恵を”買う”ことができる。今「おっさん」である私から、20年前の「若者」だった私に、いい仕事をする上で読んで欲しいを選んだ。 20年前は、炎上プロジェクトに飛び降りて、鎮火しつつ撤退する「しんがり」役を仰せつかっていた。負けることは決まっているが、死なないように生きることばかり考えていた。将来に漠然とした不安を感じていたものの、とにかく目の前の障壁をクリアすることが先決だと思っていた。 今はかなり違う。 身をもって得た経験や教訓はあるが、代償は大きく、もっと効率よく結果につなげることができたはず。この「効率」とは要するに時間だ。莫大な時を費やして手に入れた経験は確かに得難いが、そんなことをしなくても積むことはできた。どうすれば可能か、今なら分かる。 それはを読むことだ。

    おっさんから若者に贈る「経験を買う」6冊: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
    s-maeda-fukui
    s-maeda-fukui 2018/07/09
    “おっさんから若者に贈る「経験を買う」6冊 結論から言うと、経験は買える。 適切なタイミングで適切な本と出会うことで、しなくてもいい経験や、身につけておくべき知恵を”買う”ことができる。”
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