爪と目(新潮文庫) 作者:藤野 可織 新潮社 Amazon イタロ・カルヴィーノ「冬の夜ひとりの旅人が」*1に続いて二人称小説を読んでみる。日本人作家で短編作品、2013年第149回芥川賞受賞作ということでたいへん読みやすく、十分歯が立った。語り手は三歳の少女でその目を通じて母(継母)の行為行動を「あなた」という二人称の主語で綴ったもの。つまり語り手たる第一人物から第三者的に観察された人間を主体として描く、これはたしかに一人称と三人称の間に在るものかも知れない。ところが本文はまだこの2人が出会う前の「あなた」からはじまり、父(実父)と再婚して母となったその後の作中でも、語り手の目の届かないところでの不倫行為であったり「あなた」の内面描写であったり、そういうものが頻繁に記述される。さらには語り手たる「わたし」も稀に文中に現れて、神視点の三人称のように読めなくもない。逆に言うとこの作品を普通に