(承前) 6.ガイ・ドイリー=ヒューズという男 戦争への予感が高まる1939年6月15日、「グローリアス」乗組員総員による心からの見送りを受けて、ラムリー・リスター艦長は退任していった。彼は艦隊航空隊の空軍から海軍への移管という難しい時期に艦を大過なくまとめた有能さと穏やかで明朗な人柄で誰からも好かれた男であった。リスターは翌年イタリア海軍を一撃で一時的な壊滅に追い込んだタラント港夜襲を指揮して一躍英雄となり、戦中は空母戦隊の指揮官としてさまざまな戦域で活躍することになる。 士官たちはリスターの後任の着任を不安な面持ちで待っていた。その男は航空畑の人間ではないためほとんどの士官にはなじみがなく、第一次大戦の英雄、有能だが気難しく仕えがたい男、そのような断片的な評判が漏れ伝わってくるだけであった。リスターが実に仕事のしやすい上司であった分、後任者にその様な評判があることは気がかりな点である。
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