詩書専門の出版社、思潮社元代表の小田久郎(きゅうろう)氏の訃報には驚かされた。訃報というものは、つねに突然もたらされるものだし、90歳での死は大往生と言えるだろう。だが、小田氏が亡くなったのは昨年の1月。故人の遺志で1年以上、その死が伏せられていたことになる。 小田氏は生前から、すでに伝説的な編集者だった。大学を卒業して、投稿作品の文芸誌『文章倶楽部』の編集者となり、1956年に思潮社を設立。59年に創刊された『現代詩手帖』は詩壇を代表する雑誌として、60年を超える歴史を持つ。 小田久郎は詩人として出発しながらも、編集者に専念するために筆を折り、戦後詩の始まりとされる鮎川信夫、田村隆一、北村太郎ら『荒地』の詩人たちの作品に、戦後詩の目指すべき方向を見いだし、谷川俊太郎、大岡信ら、自分と世代を同じくする若い詩人たちを登用して、戦後の現代詩を先導した。60年代から70年代の現代詩の興隆は、小田