私たちは落ちこんでいた。早く介入していればと私は言った。それは無理でしたよと林さんが言った。もっと遅れていたかもしれないんですからと石塚さんが言った。これでよかったんですと橋本さんが言った。そうしてうつむいた。私たちは誰も、いいことをした気分になんかなれなかった。 七ヶ月前に、林さんは言った。何もしなくても何も起きない確率はとても高い。でも手近な窓口があることでその確率はさらに低下する。抑止力というやつだね。 林さんはそのように説明し、私と、それから石塚さん、橋本さんがあいまいにうなずいた。私たちはいずれも入社十数年の中堅どころだった。林さんは私たちより上の職位で、本務のほかにコンプライアンス遵守のための活動を取り仕切る役割を担っており、私たち三名の社員はその権限でもって林さんに呼びだされたのだった。 三名に割りふられた役割は、ベテランと若手の社員がペアになって動くある業務の「監視」だった