蒲生喜好さんが亡くなった。 蒲生さんは、87歳になる炭焼き職人だった。炭焼き一筋、最後の最後まで、炭を焼いていた。90歳まで炭を焼くと言っていた蒲生さんだったが、その願いは、わずかに届かなかった。でも炭焼き職人らしい、大往生だった。 その日蒲生さんは、もう何十年もやっていたように、釜から炭を出していたのだという。炭窯は、炭を焼いているときには1000度にもなっているという。火がおさまったところを見極めて扉を開け、できあがった墨を釜から出してくる。扉を開けるのが早すぎると、扉を開けて空気を吸い込んだ瞬間に再び火が起きて、炭は勢いよく燃えてしまう。じっくり時間を置いてからが確実だが、それでも生産性が落ちるから、いいタイミングを見極めるのが、職人技だ。 蒲生さんは、最後にタイミングを誤ってしまったのか、それとも、そのとき蒲生さんになにかが起きたのか、それはもうわからない。蒲生さんは発見された