私の父は、今も昔も出不精な人である。 家で本を読んでいれば、それだけで満足。 仕事を定年退職した今は、日々自宅警備員として二匹の猫と一緒にソファを温めている。 そんな父がたった一度だけ、我が子を連れて二人だけで出かけた記憶。 それが家族に語り継がれている、私の5歳の誕生日の話である。 私の5歳の誕生日、父は初めて娘と二人だけで出かけた。 行き先は札幌の寿司屋である。 名目は私の誕生祝い…ということだったが、実は5歳の私は生ものが苦手だった。 当時食べられた寿司ネタは納豆巻き、玉子、イカだけ。 生まれて初めてカウンターの寿司屋に連れていかれた私だが、好きなネタもなく隣で酒を飲む父を横目に、退屈を持て余した様子だったらしい。 自分の誕生日だというのに納豆巻きを食べる幼女を不憫に思った大将は、アレを食べてみないか、コレはどうだ…と色々熱心に勧めてくれたようだ。 5歳の時の記憶なのでかなりおぼろげ