生涯に1万5000点以上の本の装幀を担当し、数々のベストセラーを生み出した装幀界のトップランナー、菊地信義。 今年3月に逝去した菊地が、35年にわたるライフワークとして手掛けたのが、講談社文芸文庫の装幀だ。 その集大成となる作品集『装幀百花 菊地信義のデザイン』が12月に刊行された。 多くの読者を魅了した菊地のデザインの「秘密」とその「思想」を、菊地に師事したデザイナー・水戸部功が読み解く。 (本記事は「群像」2023年1月号への寄稿を編集したものです)。 「文庫」という理想 グーテンベルクによる活版印刷の歴史が始まって以来、日本独自の出版形態として発展を遂げた「文庫」は、出版の理想の形といえる。活版印刷の発明が目指したのは、詰まるところ、言葉の複製だ。聖書を始めとするテキストを広く一般に普及させるには、それまでの、手で書き写すか木版かという方法では時間もコストもかかりすぎるため、効率的な