『旅行者の朝食』(米原万里著・文春文庫)より。 (「未知の食べ物」という項の一部です) 【そういえば、ロシアからやって来た要人に通訳として同行した際、知らず知らずのうちに観察していたことがある。そして彼らの食べ方と生き方や性格のあいだに一定の規則性があることに気付いたのだ。 和食には、多くのロシア人にとって生まれてこのかた初めて口にするものが多い。とくに日常的に魚介類をほとんど食さない内陸部からやって来た人々にとって、刺身や鮨や烏賊などは、かなり勇気の要る挑戦である。食べ物は、自分の体内にと取り込むものであるから、初めて目にする食べ物を摂取するかどうかは、その人の無意識の素が出る。その人の好奇心と警戒心のあいだのバランス感覚のようなものが露呈してしまうのだ。未知のものに対してどれだけ心が開かれているかというリトマス試験紙のような役割を果たしてくれるとも言える。 果たして、ペレストロイカが開