◇『日本語が亡びるとき--英語の世紀の中で』 (筑摩書房・1890円) ◇世界の言語状況、明快に解き明かす 一見して挑発的なタイトルだが、それを裏付けるだけの論旨を盛った、奥行きのある、説得力に富んだ本である。筋の通った展開が知的興奮を誘う。 巻頭は、アメリカ合衆国アイオワ州に各国の作家が集まって開かれた創作プログラムの体験談。これが今の世界の言語状況の見取り図になっている。何語で書くかを選ばなければならない作家が多いのだ。 日本文学の場合、作家たちには日本語で書くことを選ぶという意識はない。日本には豊かな近代文学の伝統があり、充分な数の読者がおり、大きなマーケットがある。それが幸運な偶然によって成立したことを、水村は本書の四章「日本語という〈国語〉の誕生」と五章「日本近代文学の奇跡」で立証する。 まず、日本は中国という大きな文明の近くにあって、しかも近すぎなかった。漢字を用いながら仮名を