山本七平のこと 10. 現実離れ 山本七平は、「ある異常体験者の偏見」の中で、「多田参謀次長は陸軍の統帥部の最高責任者である。この最高責任者が『負けるから戦争はやめろ』と言っていたのである。不幸にして戦争はすでに始まっている。この場合に最も大切なことは、それに対する最高責任者の判断であろう。そして新聞に『知らせる義務』があるなら、この場合には、この最高責任者の判断こそ、全日本人に知らせる義務があったはずである。なぜこれらの最も重要なことを知らせずに、『戦意高揚記事』を書きつづけて来たのか。」と述べている。 「負ける」という判断自体、縁起がよくない。「縁起でもない」とうことは、気分・雰囲気が良くないということである。一方、戦意高揚記事は読んでいて気分がよくなる。彼らは、心地よい気分・雰囲気を求めて社寺仏閣・キリスト教会を巡り歩いている人たちである。その判断とは、気分のよしあしに基づく