「魚はあるか?」 開店と同時にひとりの男性が入店。そして自分の目の前のカウンターに座る。 「はい、色々とありますよ」 毎朝、市場へ仕入れに出向いている。こと魚に関しては地域でもナンバーワンを自負している。それを記した「本日のおすすめ」を渡すと距離を10cmほどに縮めジロジロと見ていた。近視なのだろうか? 「じゃ、『もずく』をもらおうか」 それ魚じゃないです。とはいえオーダーはオーダー。快く「ありがとうございます」と謝意を述べつつ伝票に書き加える。 「免停くらってまってな」 盛り付けをしているといきなり話し出す。自分に向かって話しているのか? 「人、跳ねてまってさ」 どうやら相槌を打った方がよさそうだ。 「それは大変でしたね」 「婆さんやったけど、こっちも気づかへんし相手もこっちのこと気づかへんもんでな、お互いに気づかんままバーンってやってまって、あ、こりゃ、死んだなと諦めたら生きとった」