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ブックマーク / kaoriha.org (98)

  • 中里一日記: クンデラの「存在の耐えられない軽さ」

    クンデラの「存在の耐えられない軽さ」 スターリンの長男ヤコフの死については数多くの伝説がある。 ドイツ側の発表では、彼は1941年7月に捕虜になり、1943年に捕虜収容所を囲む鉄条網を越えようとして自殺同然に死んだとされている。これはスターリンが「私にはヤコフなどという息子はいない」(日と同様、ソ連でも捕虜になることは禁じられていた)と述べたのを知ったためだとも言われる。また、パウルス元帥との捕虜交換をドイツ側から打診されて、「元帥と兵卒ではお話にならない」と返答したのを知ったためだとも言われる。 「存在の耐えられない軽さ」のなかでは珍説が紹介されている。捕虜収容所で、便所の使い方をめぐって他の捕虜とトラブルを起こし、そのために自殺したのだ、と。 が、これは私の知るなかでは、もっとも信憑性に欠ける説である。 ヤコフが捕虜になったというのはドイツ側の宣伝工作で、実際には彼は死体で発見され、

    synonymous
    synonymous 2023/04/28
    “「元帥と兵卒ではお話にならない」というスターリンの返答はソ連の宣伝工作とされる。ヤコフがすでに死んでいることを察知した上で、「息子の運命に胸を痛めつつ職務に忠実である父」を演出”
  • 中里一日記: 2014年12月 Archives

    八紘一宇はなぜ悪いのか 関東軍の印章には「八紘一宇」と刻まれていた。戦前・戦時中の戦意高揚アジには、「八紘一宇の大理想」というスローガンが常に繰り返されていた。 日書紀の一節から作られた言葉だが、歴史は浅く、大正時代の作である。作者・田中智学は新興宗教の教祖で、信者のなかに石原莞爾がいた。この巡り合わせがもしなかったら、八紘一宇という言葉が軍部に注目されることもなく、違う言葉がスローガンに選ばれていただろう。 八紘一宇を国家的スローガンに押し上げたのは石原莞爾とそのエピゴーネンであり、この連中が「日のためによかれと思って」やらかした数々の独善が戦前日を滅ぼした。その経緯を思えば、わざわざ内容を検討するまでもなく、屑として歴史のくずかごに叩き込まれるのも当然だろう。 だが、内容の検討がされなかったせいか、「八紘一宇の大理想そのものは正しい」と言いたがる人々がいる。「考えている」や「思っ

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    synonymous 2023/04/28
    “八紘一宇というスローガンは、「人を個人にする」という家族の意味を、どうでもいいもの、見えないものと前提することで成り立つ。八紘一宇を呼号することは、家族から「人を個人にする」という意味を排除する”
  • 中里一日記: 『ボヴァリー夫人』

    『ボヴァリー夫人』 中学の国語の副読に載っている「文学史年表」的なものを見て、そこに挙げられている作品を片っ端から読んでいく――などというエクストリームな読書を試みる人は少ないだろう。文学史年表は都道府県名のリストのようなものだ。47都道府県を、ただリストに名前が挙がっているからという理由だけで踏破する人は稀だろう。固有名詞としては当然知っているが、実際に読むのは、必要や興味があるか、よほど面白そうだと説得されたときだけだ。 たとえばソルジェニーツィン。私はソ連マニアなので読んだが、作品というよりは症例である。 「〈ソヴィエトの〉という言葉は共産主義大ロシアの攻撃的ナショナリズムのみならず、反体制派の民族的郷愁にもうってつけのものである。この言葉によって反体制派はこう信じることができるのだ。つまり、ある魔術的行為によって、ロシア(真のロシア)はいわゆるソヴィエト国家から姿を消し、一切の糾

    synonymous
    synonymous 2023/04/28
    “ロシア人が、その汚れない本質である〈ロシア性〉を辱めることなど考えられない。彼らのなかにはひとりのマンも、ひとりのゴンブローヴィッチもいない”
  • 中里一日記: これから五輪に起こること

    これから五輪に起こること 1. 状況は見た目より悪い 最初が一番辛い。だから、こちらに来て、我々からのハグを受け、座ってほしい。我々自転車界は今から、大切なことを君に伝えよう。 これは氷山の一角だ。 (Seven things track and field can learn from cycling) これまでのあらすじ:ロシアは国家の総力を挙げて、アスリートへのドーピングとその隠蔽を行っていた。問題の発覚を受けてWADAは、リオ五輪におけるロシア選手団の排除をIOCに勧告した。しかしIOCは勧告を受け入れず、「各競技団体が問題なしと判断した選手は出場可」「ただし、過去にドーピングで処分されたことのある元ロシア代表選手は不可」という決定を下し、全世界(ロシアを除く)に非難されている。 上に引用した記事は、2016年1月、問題がまだロシア陸上界にとどまっていたときに書かれた。半年という期

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    synonymous 2018/06/11
    “五輪というイベントと、五輪を頂点とする競技はこれから、現役の経済活動ではなくなり、保護されるべき伝統文化となるだろう。”
  • 中里一日記: 宮島英紀『伝説の「どりこの」』(角川書店)

    宮島英紀『伝説の「どりこの」』(角川書店) 戦前の日を調べていれば必ず目につくあの広告、「どりこの」。 カルピスのように5倍希釈して飲む清涼飲料水で、ただしカルピスとは違って広告は効能を謳っている。「高速度滋養料」というからスポーツドリンクのようなノリだが、値段は割高だ。当時のカルピスが原液600ccで1円なのに対して、どりこのは原液450ccで1円20銭(5倍希釈後350ccの値段は、物価で換算すると現在の373円、収入に占める割合では933円程度)。この価格付けはエナジードリンクに近い。清涼飲料水がまだ珍しかった当時、どりこのはエナジードリンクという新市場を開拓し、最盛期には年間200万以上も売れたという。 広告をご覧になったことのあるかたはご存知のとおり、どりこのは大日雄弁会講談社(現・講談社)が販売していた。戦前の講談社は多角経営で、レコード(現・キングレコード)や石鹸を製造

  • 中里一日記: 中村逸郎『ソ連の政治的多元化の過程』(成蹊堂)

    中村逸郎『ソ連の政治的多元化の過程』(成蹊堂) 1988年からソ連崩壊にかけて、モスクワのある地区党組織(オクチャーブリ地区党委員会)の活動をリアルタイムで調査したである。『東京発モスクワ秘密文書』(新潮社 )と内容はほぼ同じらしい。一般にはこちらのほうが手に入れやすいだろう。 さて内容だが、素晴らしい。日語で読めるソ連のなかでは、五の指に入る。 地区党組織の日常業務は、まさに書の内容なので現物を読んでいただくとして、私の興味について言いたい。 1991年前半の時点で、エリツィン派(いわゆる地域間グループ)の権力基盤が崩壊しつつあったことが書から読み取れる。 そもそも、遠く離れた目で見れば、モスクワ市民はモスクワに住んでいるというだけで既得権益にあずかっている。文化教育、物資などのあらゆる面で恵まれているのに、市場原理がないので家賃は安い。損得でいえば既存体制を支持すべき人々

  • 中里一日記: 女性の高貴さと卓越性

    ウンベルト・エーコ『醜の歴史』(東洋書林)167ページより。 ルクレツィア・マリネッリ 『女性の高貴さと卓越性』(1591年) 女性は男性より美しく、男性は概してより粗野で不格好に見えるのですから、女性が男性より優れていることを誰が否定できましょう? これは私だけの意見ではありません。女性の美しさは素晴らしい見ものであり、注目すべき奇跡だと言えるのに、男性は十分にほめたたえ、頭を下げることをしないのです。しかし、話を先に進めて私が示したいのは、男性は女性を愛することを余儀なくされ、強いられる一方で、女性の方は単に親切としてでなければ愛し返す必要がないことです。(中略)男性が美しいものを愛するのは必然でしょう。しかし、この世に女性以上に美しいものはあるでしょうか。何もありません。男性諸君が天国の輝きを表現するのに、女性の魅惑的な顔にたとえるのが良い証拠ではありませんか。この美しさゆえに、男性

    synonymous
    synonymous 2016/03/29
    “この美しさゆえに、男性は女性を愛さざるを得ないのです。しかし、女性は男性を愛する必要はありません。なぜなら、男性は美が少ない、つまり醜いのですから、生来、愛される価値がないのです。”
  • 中里一日記: 『思い出のマーニー』

    『思い出のマーニー』 ネタバレ感想。 結論:マーニーを筆頭に、みんなよくできた人すぎる。 予告編を見て、「マーニーはきっとどうしようもない困ったちゃんだけれど杏奈への愛は深くて、杏奈は振り回されつつも惹かれていくにちがいない!」と予想(妄想)を繰り広げた皆様こんにちは。ワシもじゃ、ワシもじゃみんな!! が、マーニーはよくできた人だった。 落ち着かない話だ。ネグレクトされているはずのマーニーがあれでは、杏奈の立つ瀬がない。杏奈ひとりが出来損ないのように見えてしまう。 マーニーがよくできた人のせいで、緊張感がない。たとえば、マーニーがボートの舳先に立って一人で『タイタニック』ごっこをするシーンだ。もしマーニーが滅茶苦茶な人なら、「このボートはひっくり返るのでは?」というサスペンスが生じる。それが実際には、「マーニーが自信ありげにやっているのだから問題ないのだろう」となり、綺麗なだけのシーンにな

  • 中里一日記: 映画『思い出のマーニー』の謎を解く

    映画『思い出のマーニー』の謎を解く (脚の)謎はすべて解けた! ……とはいっても、答え合わせ(=BDを見て弱点を探す)はしていないので、致命的な弱点が見つかる可能性は高い。なお当然ながら以下ネタバレとなる。 脚の違和感その1:なぜ久子は、人間マーニーの生涯のさまざまな局面について、『幸せ』や『不幸』と乱暴にも断じたのか。人が、身近な人の生にそんな判定を下すとは、どういうことか。 その2:なぜ久子は、人間マーニーと娘の不仲について、「全寮制の学校にやったのだけが原因」という説明をしたのか。説得力に欠ける。「マーニーにもいろいろ問題があったのかもしれない」という含みを持たせるのが大人ではないか。 その3:それまで如才なく友情に厚いように見えたマーニーが、パーティーで杏奈を粗略に扱ったのはなぜか。 その4:『私を許してくれるって言って』と問い交わすときの「許し」には、マーニーが杏奈を育てられ

  • 中里一日記: タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル『シークレット・レース』(小学館文庫)

    タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル『シークレット・レース』(小学館文庫) 書はタイラー・ハミルトンの自伝である。ハミルトンは、ランス・アームストロングのアシストとして働き、のちにはアームストロングのライバルとしてツールドフランス(TdF)に挑んだ元トップ選手である。アームストロングの人物と、プロロード界のドーピング事情について詳しく記されている。 ずいぶん生ぬるい。また、ドーピングについて誤解していると思しき記述もある。 まず、生ぬるい点について。 アンディ・リースという人物がいる。スイスの億万長者、補聴器メーカー・フォナック(今はSonova)の2代目オーナー、かつて存在したプロロードチーム・フォナックのスポンサー、そして今はプロロードチーム・BMCのスポンサー。 ハミルトンがアームストロングのライバルとして戦ったとき、フォナックに所属した。また、ハミルトンとよく似た経歴の元トップ

  • 中里一日記: 八紘一宇はなぜ悪いのか

    八紘一宇はなぜ悪いのか 関東軍の印章には「八紘一宇」と刻まれていた。戦前・戦時中の戦意高揚アジには、「八紘一宇の大理想」というスローガンが常に繰り返されていた。 日書紀の一節から作られた言葉だが、歴史は浅く、大正時代の作である。作者・田中智学は新興宗教の教祖で、信者のなかに石原莞爾がいた。この巡り合わせがもしなかったら、八紘一宇という言葉が軍部に注目されることもなく、違う言葉がスローガンに選ばれていただろう。 八紘一宇を国家的スローガンに押し上げたのは石原莞爾とそのエピゴーネンであり、この連中が「日のためによかれと思って」やらかした数々の独善が戦前日を滅ぼした。その経緯を思えば、わざわざ内容を検討するまでもなく、屑として歴史のくずかごに叩き込まれるのも当然だろう。 だが、内容の検討がされなかったせいか、「八紘一宇の大理想そのものは正しい」と言いたがる人々がいる。「考えている」や「思っ

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    synonymous 2015/06/24
    『人を個人にするものを排除し、乗っ取り、貶めることを「全体主義」という。八紘一宇は全体主義だ。』
  • 中里一日記: よかった探し

    よかった探し STAP細胞事件はまだ始まったばかりだが、事件の性質はすでに確定した。 O氏の手際の杜撰さは、ファン・ウソクやヘンドリック・シェーンと共通する。捏造したのが画期的業績(=必ずバレる)であることも同じだ。ある種の精神構造は、捏造が発覚することを気にかけないらしい。 共通点が目立つのと同じくらい、それぞれの事件の個性も目立つ。ファン・ウソク事件はナショナリズム抜きには語れない。ヘンドリック・シェーン事件は、共同研究者の責任という問題を提起した。では、STAP細胞事件の特徴はどこにあるのか。 私が思うに、それは「過剰」であることだ。 ファン・ウソクが2004年に捏造した業績は、2007年にほぼ現実のものとなった。ヘンドリック・シェーンの業績はこれよりは大げさだが、権威ある賞を複数受賞した、つまり学界でいったんは「ほぼ確定した話」と見なされた。STAP細胞事件に比べれば二人とも、もっ

  • 中里一日記: 人は読まない、人は学ばない、人は変わらない

    人は読まない、人は学ばない、人は変わらない このところ辛いことが続いて、さすがの私もぐったりしている。外聞がよくてわかりやすい件だけ言うと、交通事故に遭って全治6か月、左腕がまったく上がらないし、普通のベッドに横たわると自分ひとりでは起き上がれない。 そんなわけで、『兵士シュヴェイクの冒険』を日々読み返しては心を慰めている。私もシュヴェイクのような謙虚な人間になりたい。ああいう謙虚な人間なら、今の私のこの状況も、赤子のような澄んだ目でやりすごせるだろう。自分がどちらかといえばヘロストラトスの側の人間である――「どちらかといえば」どころか「どこからどう見ても」と言うべきか――ことはよくわかっているのだが。 このぐったりした気分にふさわしく、今日は恐ろしく無駄なことを書こうと思う。私はどうやってもシュヴェイクにはなれないのだから。 昔、男の子がいた。大きくなったら「偉大な」作家になりたいという

    synonymous
    synonymous 2011/11/11
    『人は学ぶ動物ではなく、信仰する動物である。』
  • 中里一日記: 2度目の正直

    2度目の正直 今のどさくさにまぎれて政府がやっておくべきこと: ・東電の発送電分離 ・もんじゅ廃炉 ・地震予知と縁を切る これくらいできないようでは、既存原発の耐災害性強化さえもおぼつかない。 人間はなんにでも慣れる。人間はどれだけ煮え湯を飲まされても、「世の中はそういうもの」にしてしまえる。レベル7の事故も10回目になれば、「世の中はそういうもの」ということになって、一匹動かせなくなるだろう。だから、まだ2回目のうちに色々やっておかなければならない。

    synonymous
    synonymous 2011/09/08
    『レベル7の事故も10回目になれば、「世の中はそういうもの」ということになって、猫一匹動かせなくなるだろう。だから、まだ2回目のうちに色々やっておかなければならない。』
  • 中里一日記: 革命後の世界を求めて

    革命後の世界を求めて 赤松啓介『非常民の民俗境界』(明石書店)を読んだ。 分類としては一応、民俗学の研究書になるかもしれない。祭祀・差別・性・階級などさまざまなテーマを扱っている。しかし結論や概要のある論文ではなく、書自体が民俗のありようを証言する一次史料となっている。 著者は、戦前の加古川流域(兵庫県)で行商・共産系の社会運動・民俗学の調査の3つを同時に行ってしていたという人物で、社会生活のドブの底に浸かって活動した過去にふさわしく、いかがわしく迫力のある読み物になっている。書の記述がどこまで事実を反映しているかというと疑問符がつくが、いかがわしさを含めつつ書き記す著者の態度には、見るべき真実がある。 書を読んで、私はぐったりと疲れた。書の調査対象となった農村の内輪ぶりに打ちのめされた。 「内輪」とは、たとえば書247~248ページ: そこでよくいわれるのは、若衆仲間の目的・役

    synonymous
    synonymous 2011/09/08
    『「他者」や「自由」という発想さえなさそうな態度が、私の言う「内輪」である。』
  • 中里一日記: 杉田かおる『杉田』(小学館)

    杉田かおる『杉田』(小学館) 「信頼できない語り手」というが、そもそも信頼できる語り手がフィクション以外にいるとしたら、その人はアカシックレコードかなにかを見ているにちがいない。また、そんな話が対機説法より楽しいとも思えない。 とはいえやはり信頼度の高低はあるわけで、杉田かおる『杉田』(小学館)の信頼度の低さには驚愕した。 たとえ言っていることが1行ごとに矛盾していても、その矛盾する姿そのものが真実、という自伝もありうる。お役所の報告書のように理路整然とした自伝は、「そんなに筋の通った人間がいるものか」という疑いを免れないだろうが、反証しやすいぶん信頼度は高い(反証されるまでは)。ほとんどの自伝はどちらの極端でもなく、流行りの物語に実名を入れただけのドリーム小説もどきのパッチワークで大部分が埋まっており、埋めきれない隙間にときどき真実が顔をのぞかせる。 さて書のどこがどう驚愕なのか。7ペ

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    synonymous 2011/09/08
    『著者の書きぶりには、自分のしていることが父にそっくりだと気づいているような気配はない。』
  • 中里一日記: 集団発狂は止められるか

    集団発狂は止められるか 子供を見ていると、人間はそもそも集団発狂している存在だとわかる。 学校でうんこは恥ずかしくない! 「チーム」結成し悩み解決 あの狂気はまだ続いているのかと思って、ため息が出た。 現在の目で戦前・戦中の日を見ると、こういう子供同然の集団発狂のありさまが観察できる。おそらく現在も、後世の目で見れば、「学校でうんこ」レベルの狂気が蔓延した世界なのだろう。

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    synonymous 2011/07/05
    「現在の目で戦前・戦中の日本を見ると、こういう子供同然の集団発狂のありさまが観察できる。おそらく現在も、後世の目で見れば、「学校でうんこ」レベルの狂気が蔓延した世界なのだろう。」
  • 中里一日記: 少女まんがにおける暴力

    少女まんがにおける暴力 第一次大戦前に書かれたある小説から引用する: 「私はある魔法の杖を知っているのです。ただ、それを正しく使える人はひとりかふたり、それも、ほんの稀にしか使えないのです。それは、世にも恐ろしい魔法の杖で、それを使う者以上に強力です。これを使うことはしばしば恐ろしく、ときには悪です。しかし、これに触れられたものはすべて、二度とふたたびもはや平凡なものではありえません。それに触れられたものはすべて、この世ならぬ魔力を授かるのです。もし私がこの魔法の杖で、ノッティング・ヒルの鉄道や道路に触れれば、人びとはそれらを永久に愛したり畏れたりするようになるでしょう」 「いったい何のことを言っているのかね?」と国王は尋ねた。 「その力でこれまでも、つまらぬ風景は絶景となり、あばら屋は大聖堂をしのぐにいたりました」と狂人はつづけた。「とすれば、どうして同じように、ロンドンの街灯がギリシャ

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    synonymous 2010/11/30
    『筋書き・役割・意味を一義に定めることは、フィクションの世界でさえ、このような問題を引き起こす。ましてや、現実の出来事を眺める際にそんなことをしたら、ひどく安易な気持ちで魔法の杖を持ち出すようになる』
  • 中里一日記: 今日の名言

    今日の名言 『名誉な事柄は最も強いものに譲るべきであるが必要な事柄は最も弱いものに譲るべきだ』 ――ユリウス・カエサル(プルタルコスの伝記による) 『又或る時は、途上であらしのために供のものと貧乏な人の小屋に追い込まれ、やっと一人入れるだけの部屋しかないのを見たカエサルは友人たちに、名誉な事柄は最も強いものに譲るべきであるが必要な事柄は最も弱いものに譲るべきだと云って、オッピウスをそこで休ませ、自分は他のものと一緒に入口の軒下で眠った』(プルタルコス『プルターク英雄伝(九)』(岩波文庫)124ページ) この伝記には、40過ぎのカエサルがアレクサンドロス大王の伝記を読んで涙したという話(自分が40過ぎてもまだなにひとつ華々しいことをしていないのを嘆いて)が出てくる。同じプルタルコスの伝記ではアレクサンドロス大王は、戦争で得た栄光は素晴らしいけれど王としては名君ではなかった、とされている。する

    synonymous
    synonymous 2010/02/08
    「単なる同情だけにもとづいて、『最も弱いものに譲る』世界を作ることができたとしても、長続きはしないだろう。このことはマルクスも見抜いていたが、社会主義革命もやはり長続きしなかった。」
  • 中里一日記: 京速計算機に予算をつけるアホはいない

    京速計算機に予算をつけるアホはいない 「京速計算機」からNEC、日立が離脱 ベクトル・スカラー複合構成は困難に 関係者はこのときから「もうだめだ」とわかっていたはずだ。詳細設計の最終段階になってから、主要メンバーの過半数が逃げ出したのだ。設計の最終段階になってから、アーキテクチャからやりなおすのだ。アホか、としか言いようがない。 実性能がろくすっぽ出ないアーキテクチャで、ベンチマークと期日だけ目標を達成する、というのが現状から望めるもっとも理想的なシナリオだ。これが理想なのだから、現実はといえば、ベンチマークも期日もぐだぐだになり、結局なにもできませんでした、で終わるだろう。 残り少なくなった関係者の面子をしばらくのあいだ保つためだけに「金をくれ」と要求せざるをえない担当者には同情する。