私がジャン=ピエール・デュピュイのことを知ったのは、スラヴォイ・ジジェク氏の『ポストモダンの共産主義』(ちくま新書、2010年、原著2009年)を読んだときだった。 ジジェク氏はデュピュイの次のような一節を引用していた。 大惨事は運命として未来に組みこまれている。それは確かなことだ。だが同時に、偶発的な事故でもある。つまり、たとえ前未来においては必然に見えていても、起こるはずはなかった、ということだ。(……)たとえば大災害のような突出した出来事がもし起これば、それは起こるはずがなかったのに起こったのだ。にもかかわらず、起こらないうちは、その出来事は不可避なことではない。したがって、出来事が現実になること――それが起こったという事実こそが、遡及的にその必然性を生み出しているのだ。 私が「大惨事」の例として当時(2010年)思い浮かべたのは、1995年の阪神大震災や地下鉄サリン事件、2001