スパイ映画と現実のインテリジェンスの世界は、密接につながっている。例えば、太平洋戦争中に作成された『開戦の前夜』(松竹、1943年)は、上原謙が扮(ふん)する憲兵隊外事課長がアメリカ大使館の駐在武官ノックス大尉を追い詰めていく物語である。憲兵司令部が全面協力して作成した映画なので、尾行の方法、観察対象とした人物の人脈図の作成法、それからアメリカが日本の興信所を用いて、東京爆撃用の地図を作成していく様子がリアルに描かれている。 プーチン・ロシア大統領が、KGB(旧ソ連国家保安委員会)に勤めたいと思ったのも、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに潜入したソ連の工作員を主人公としたテレビ映画『剣と盾』を見た影響が大きいと本人が語っている。諜報(ちょうほう)機関員一人の働きで国家の命運が左右されることもあると感じた中学生のプーチンは、レニングラード(現サンクトペテルブルク)のKGB支局を訪ねた。そ