(松籟社・2860円) 占領、戦争、破壊の記憶 3少年が見たのは 一二歳前後の少年三人が過ごした、ある夏休みの物語。舞台はポーランド北部、バルト海に面した港町グダンスクとその周辺。この土地特有の濃密な気配、野蛮な体罰や飲んだくれの喧嘩(けんか)が珍しくない荒っぽい日常生活でありながら、少年の目を通して描き出される情景の新鮮さ、時の流れの中を行きつ戻りつして過去を掘り起こす語り手の心の揺れに密着した文体――こういったものがあいまって、ちょっと類例のない独自の雰囲気のある作品世界を作っている。そして何よりも、読者を惹(ひ)きつけ、読後もたゆたい続けるのは、この物語に仕掛けられ、結局最後まで解き明かされることのない謎だ。 時は一九五七年。戦後ポーランドが社会主義国として復興に取り組んでいたころだ。この年の夏、三人の少年たちの前にダヴィデクという同級生が、突然、大きな存在として立ち現れる。ダヴィデ