(みすず書房・3300円) 「パラダイム」概念の名著、待望の新訳 待望の新訳の登場です。漸(ようや)く、という思いもあります。同じ書肆(しょし)からの旧訳の出版が一九七一年ですから、半世紀以上が経過しての再出版ということになります。何故「待望」だったのか、理由は二つあります。一つは内容に関わることで、アメリカでこの原著が一九六二年に刊行されて以来、小さな改訂や補記が付された版が重ねられてきましたが、二〇一二年になって、原著出版五十周年記念の第四版が、この分野の現存する指導的研究者の一人イアン・ハッキング(実は今年鬼籍に入りました)の批評・解説の文章を「序説」という形で加えられて刊行され、翻訳書は、言わばその最新版の翻訳であるからです。 もう一つの理由は、旧訳の訳者が、評子にとっても大切な先達に当たるがゆえに、書き難いことなのですが、学問の翻訳書としては、出版を急がれたのか、やや粗っぽさが目