朝起きたら函館だった。 ホテルで朝食を食べていたら、「あらまあ、おはようございます」と聞き覚えのある声がした。 そこに立っていたのは、僕がよく行く東十条のやきとん屋の女将だった。 「なんでこんなところに」 「連休だから。飛行機で来て、今日の夜に新幹線で東京に帰るところなの」 「それはそれは、実に奇遇ですね」 このやきとん屋さんは、僕にとって、ジェダイ神殿のようなものだ。 無宗教である僕にも、心理的な拠り所が必要になる時がある。 その時、いつもここの大将のことを思い出す。 僕は一時期、この店に毎週、4時間並んだ。 この店では最初の客を「トップ」と呼ぶ。 トップには、あらゆる料理を注文する権利が得られる。 「教養とは暇つぶしの方法である」と言ったのは中嶋らもだったか。 僕は四時間並びながら、5冊の本を書いた。 そのうちの一冊、特に読みやすい薄い一冊を、大将にプレゼントした。 すると大将は、「清
