『忘れられた日本人』で知られる民俗学者・宮本常一とは何者だったのか。その民俗学の底流にある「思想」とは? 「宮本の民俗学は、私たちの生活が『大きな歴史』に絡みとられようとしている現在、見直されるべき重要な仕事」だという民俗学者の畑中章宏氏による『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』が5刷と話題となっている。 ※本記事は畑中章宏『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』から抜粋・編集したものです。 「移動」からみた列島文化 日本人は、稲作に携わってきた人口が統計的にも多数を占めたことから、移動が少なかったようにみられがちである。 しかし、宮本が記録した庶民は、移動する人びとが目立つ。それは、宮本の故郷である周防大島が、国内外を移動してきた人びとが多い島だったからである。そうした移動者の一端は、『忘れられた日本人』のなかにも描き出されている。 1950年(昭和25)、学術調査団