棡原(ゆずりはら)の食生活は戦後一〇年頃まで、土地から穫れる物で完全に自給自足していたという。土地から穫れる食材……具体的に挙げていくと麦を中心として雑穀、豆類、芋類、野菜、山菜、海草、味噌、魚の干物なと。 ざっと見回しても動物性たんぱん質はきわめて少なく、ハレの日以外はめったに口にしなかったそうだ。この食生活で発育期を過した棡原の現在の高齢者たちは一見小柄な体型だが、骨格測定をするとガッチリした強じんな骨組みに驚かされる。厳しい自然の風土と重労働と食とが組み合わさって作り上げられた賜だ。 さてそれにしても、これらの一見味けない炭水化物類を、どうやって調理して三食のテーブルにのせてきたのか。まず、棡原の食生活の特徴的存在、麦のあしらい方からみてみたい。麦には大麦と小麦がある。大麦は「押し麦」「お麦(ばく)」「割り」の三種類の食べ方で、小麦は粉にしてうどん・ほうとう・酒まんじゅう・ヤキ餅など