山根一郎 恋愛は,自分と相手との間の心理的距離に最も敏感になる関係である. どん欲なまでに相手との心理的距離を近づけたいという強い願望が恋愛を支配している. それでいて心理的距離が離れたら恋愛はあっけなく終わってしまう. 恋愛とは純粋に心理的距離上の出来事だ. それなら,心理的距離上で生じる諸問題は,恋愛という場においてこそ,最も明瞭になるのかもしれない. そこで,私の「対人心理的距離モデル」で,どこまで恋愛現象を記述できるかを試みたい. といっても本稿のために特に研究をしたわけではなく,私自身の少ない経験や主観を題材にするので,”恋愛の心理学”といえる内容ではない. 私の小さな恋愛論だといってもよい. 恋愛論というなら,東西の恋愛論も引用しよう. プラトンの「饗宴」,スタンダールの「恋愛論」の古典は今更でもないので, 私の好みで,ロラン・バルトの「恋愛のディスクール」(みすず書房)と福永