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片頭痛患者は,頭痛発作に先立ち,皮質拡延性抑制(CSD)と呼ばれる病的脱分極に伴う一過性の前兆(aura)を経験します.症状としては一過性の視覚障害や感覚障害です.このCSDは片頭痛の引き金になると考えられてきましたが,そのメカニズムは不明でした.コペンハーゲン大学のKaag Rasmussen先生らは,最新号のScience誌に,げっ歯類片頭痛モデルを用いて,CSDが脳脊髄液のプロテオームの変化を引き起こし,頭痛に関わるタンパク質の発現を増加させること,そしてそのタンパク質が三叉神経の痛覚受容体(侵害受容体)に結合して活性化させ,片頭痛発作を誘発することを初めて明らかにしました. つまり三叉神経節は血液脳関門の「外側」に存在するため脳脊髄液に直接さらされることはないと考えられてきたのですが,それは間違いで,三叉神経節の根元ではバリアが欠落しているため,脳脊髄液中の物質が侵入して頭痛を引き
筋萎縮性側索硬化性(ALS)などの運動ニューロン病は根本療法が未確立の神経難病です.心理的サポートは有益であろうと想像できますが,小規模・短期間の研究のみで十分なエビデンスはありませんでした.Lancet誌に,英国からAcceptance and Commitment Therapy(ACT)と名付けられた,受容,マインドフルネス,認知行動療法を取り入れた心理療法が,患者さんのQOLを大幅に向上できることを示した臨床試験が報告されました.ちなみにACTは,つらい感情や思考をコントロールしたり回避したりするのではなく,受け入れることに重点を置いています. 方法は多施設無作為化比較試験で,対象はALS,進行性筋萎縮症,原発性側索硬化症を含みます.運動ニューロン病向けのACT+通常ケアを受ける群と,通常のケアのみ受ける群に割り付けました(それぞれ97人と94人).ACTは専門知識を持つ臨床心理士
2月15日の投稿で,若年性認知症の危険因子の1番目が起立性低血圧であることをご紹介し,パーキンソン病に伴う認知症やレビー小体型認知症(DLB)の早期徴候が捉えられた可能性があると記載しました.ちょうどこれに関連する研究が最新のBrain誌に報告されています. 純粋自律神経不全症(PAF)はαシヌクレインが自律神経系の神経細胞・グリア細胞に蓄積し,血管や心臓を支配する交感神経終末からのノルエピネフリン放出障害が生じる疾患で,起立性低血圧を主徴とします.PAFはパーキンソン病(PD),レビー小体型認知症(DLB),多系統萎縮症(MSA)といったαシヌクレイノパチーの前駆症状であることが知られ,将来,これらの疾患を発症する(phenoconversionする)可能性があります.今回,米国および欧州のPAF患者を最長10年間前向きに追跡した縦断的観察コホート研究が報告されました. 罹病期間の中央値
自己免疫脳炎の代表的疾患である抗NMDAR脳炎は,精神症状,記銘力障害,痙攣発作,運動異常症,意識障害,中枢性低換気などを呈する若年女性にみられる脳炎です.急性期から積極的な免疫療法を行うことが重要で,第1選択療法でうまくいかないとき,速やかにリツキシマブなどの第2選択療法に踏み切れるかが重要です.ただし現在の治療は,広範な免疫抑制ないし非選択的抗体除去ですので,限界があり副作用も問題になります. 今回,Cell誌に,ドイツからCAR-T細胞療法でNMDAR抗体を作るB細胞を選択的に除去するという研究が報告されました! CAR-T細胞療法は脳神経内科では馴染みがありませんが,急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫といった血液がんに大きな進歩をもたらした治療です.少し解説すると,近年,T細胞免疫療法において,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)をもつ遺伝
スウェーデンのルンド大学等のチームがパーキンソン病の発症前診断を可能にするバイオマーカーをNature Aging誌に報告しています.著者らはDOPA脱炭酸酵素(DDC; DOPA Decarboxylase)別名,芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(aromatic L-amino acid decarboxylase; AADC)の脳脊髄液レベルが,レビー小体病(LBD)患者(パーキンソン病48名,レビー小体型認知症33名)を正確に同定できること(AUC=0.89;PFDR=2.6×10-13;図1左),ならびに認知機能の低下と関連することを示しています(P<0.05).DDCは外因性のL-DOPAからドーパミンを生成するのに必須の酵素です. また,脳脊髄液DDCは,シード増幅αシヌクレインアッセイ陽性(seed amplification α-synuclein assay)で臨床症状を認
標題に関してとても分かりやすい図を掲載した総説がありました.以下,まとめです. 1)視神経(図1) MOGAD ではガドリニウム造影病変(Gad+)は前方に長く,視神経鞘や眼窩脂肪の異常信号や乳頭浮腫を伴う.NMOSDではGad+は視神経交叉に認められる.MSではGad+は短く,多くの場合,中ほどに認める.Gad+は通常経過観察ですべて消失する. 2)脊髄(図2) MOGADでは脊髄のT2病変は長大で多発し,脊髄円錐も傷害し,軸位断ではH型を呈する.NMOSDでは単発性で長大で,軸位断で中央に円形を呈する.MSでは多発性,短く,辺縁に認められる.経過観察では MOGADの病変はしばしば消失するが,NMOSDとMSでは残存し,MSでは新たな病変が生じる. 3)大脳病変 ①MOGAD(図3) FLAIR異常信号を,橋,中小脳脚,視床,大脳白質,皮質に認め,Gad+は軟膜・くも膜に認める.6~1
自己免疫性脳炎の研究は非常に大きな進歩を遂げています.抗神経抗体は細胞表面抗原と細胞内抗原を認識する抗体に大別されますが,前者は治療可能性が高いことから見逃さないことが重要です.さらに後者でもGFAP抗体やKLHL11抗体のように比較的免疫療法が奏効する脳炎もあります.しかし急速に自己抗体が増加し,その臨床像が明らかになったためフォローが難しく,症候から自己抗体を推定することが難しくなっています.今回,Oxford大学のグループから発表された総説は,治療可能で見逃したくない自己抗体について解説したもので,非常に有用です.とくに各抗体が呈しうる臨床症候の頻度をヒートマップで,希少または不明(0=青)から一般的(4=赤)まで示したFigureは役に立ちます. 上段の細胞表面抗原は受容体が多いため,痙攣や意識障害,そして記憶障害が多く認められることが分かります.運動異常症(hyperkineti
米国神経学会年次総会(AAN2023)にてAlberto J Espay教授(シンシナティ大学)の機能性運動異常症(FMD)の講義を拝聴しました.昨年,Lancet誌に発表された短報の詳しい解説で,YouTubeで下記動画も公開されています. Looking of inconsistency and incongruence 提示症例は4ヶ月前に突然発症した,頭部と右腕の間欠的な不随意運動を呈した67歳女性です.前医の画像検査や脳波は正常でした.そして「心因性」と言われた後,納得がいかずEspay教授の専門外来を受診しました. 広頸筋の間欠的収縮と頭部の回転運動を伴う発作性頸部後屈でした.この運動異常には振幅と周波数の変動が見られ,また複雑な指タッピングを行うと一時的に抑制されたり,指タッピングの周波数と同期したりしました.歩行時には縦横の歩幅が変動し,失立失歩も認め,さらに頭部の動きも変
全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症の症状の進行を抑えようと、患者に遺伝子を投与する治験が自治医科大学附属病院で始まりました。遺伝子治療でALS患者への投与が行われるのは国内で初めてで、治療法としての確立を目指したいとしています。 ALSは筋肉を動かす運動神経が壊れて全身が徐々に動かなくなる難病で、国内に患者はおよそ1万人います。 ALSの患者では「ADAR2」という酵素が減っていることから、自治医科大学の森田光哉教授らのグループは症状の進行を抑えようと、先月50代の男性患者に対し、この酵素を作り出す遺伝子を投与しました。 グループでは、遺伝子の運び役となる無害なウイルスを使い、カテーテルを通じて患者の脊髄に送り込んだということです。 遺伝子治療でALS患者への投与が行われるのは国内で初めてで、今後、発症から2年以内の遺伝性ではないALSの患者、合わせて6人に投与
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はせきや発熱、呼吸困難、体の痛みといった症状が出るほか、感染性が消失した後も強い倦怠(けんたい)感や息切れといった後遺症(ロングCOVID)が残るケースがあります。そんなCOVID-19の後遺症の1つに、頭がぼーっとして認知的な問題が生じる「ブレインフォグ」がありますが、このブレインフォグを既存の薬の組み合わせで治療できるという研究結果が報告されました。 Clinical experience with the α2A-adrenoceptor agonist, guanfacine, and N-acetylcysteine for the treatment of cognitive deficits in “Long-COVID19” - ScienceDirect https://doi.org/10.1016/j.nerep.2022.
カンファレンスで「ブロムワレリル尿素」による急性中毒について解説しました.この成分を含む市販頭痛薬の過量内服もしくは依存により,急性ないし慢性中毒が生じます.私自身は数例経験があります.上述の通り,「ブロモバレリル尿素」は一部の市販の鎮痛薬に含まれています.非常に依存が生じやすいので避けたほうが安全です.米国などではすでに医薬品としては禁止されていますが,日本はどういうわけか簡単に手に入ります.具体的には「ナロン錠」「ナロンエース」「ウット」などです.病歴でこれらの薬剤が出てきたら疑ってかかります. 「ブロムワレリル尿素」は有機臭素化合物です.暴露後,直ちに臭化物イオンに代謝され中枢神経に毒性を発揮します.悪心,嘔吐,傾眠,せん妄,錯乱,興奮が生じ,精神疾患と誤診されることがあります.重篤になると昏睡,痙攣重積発作,呼吸抑制・停止が生じます.頻脈と紅斑様皮疹を認めることがあります.検査では
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