最初に異変を感じたのは2020年9月のことだった。突然、自宅の棚に置いた食器が「チャリチャリ」と甲高い音で鳴り始めた。 娘は「パパ、大音響はやめて!」と叫んだ。夫の部屋にあるスピーカーが原因だと思ったからだ。 部屋に飛び込むと、夫はきょとんとしていた。音楽など流していなかった。 同じ頃、自宅そばの深さ約50メートルの地下で、巨大なシールドマシン(掘削機)がトンネルを掘っていた。しかし、この家に住む河村晴子さんは、そのことを知らなかった。東京外郭環状道路(外環道)のトンネル掘削工事だった。 サルスベリ、ハナミズキ、オリーブ……。窓から見える木々は季節ごとに趣を変え、スズメやシジュウカラなどの小鳥たちを招き入れてくれる。元高校教諭の河村さんは、慌ただしい日々に彩りをくれる、自宅の庭が大好きだった。 地下深くの工事は、要件を満たせば住民の同意は不要です。でも、陥没事故が起き、さらに近く、住宅40