「この見積もりを作ったのは誰だ!」 怒声が事務棟を揺るがせた。頭の禿げた年配のノームが残ったわずかな髪の毛を逆立てている。 顔に大きな傷のあるオーク鬼の巨漢からエルフの小娘まで多種多様な民族構成からなる主計官たちはこの小さなボスの剣幕にすくみあがっている。 「だれだときいている」 手にした書類を手の甲で叩きながら睥睨するボスの名は黒森屋大尉。この帝国軍団の調達を担い、大本営から地元の漁師まで多方面との交渉を担っている。もともとはノームの国の怪しいギミックを言葉巧みに帝国軍でも反乱軍でもかまわず売りつけていたのだが、何があったのか今は大尉の階級章をぶらさげて軍団の世話係である。だからといっていつもこう機嫌が悪いわけではない。 「あ、あの、ボクです」 恐る恐るヒューマンの若者が手をあげた。種族の中でもひょろっとした気弱そうな青年である。 「これでは食糧が足りん。分遣隊は目的地にたどり着く前に餓
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