●成立と作者 『前太平記』とは、藤元元著の、「通俗軍記物語」である。作品の正式な成立年代は不明であるが、少なくとも江戸時代初期、1677~1692年の間の活字出版が盛んにおこなわれるようになった時期かと思われる。 ●現在の所蔵先と出版物として 現在、『前太平記』は国立公文所館内閣文書に所蔵されており、国書刊行会より、板垣俊一氏校訂によって、上下二巻で出版されている。本出版物には、板垣氏の『前太平記』の解題が載っているので、私の訳を読み、この作品のことをもっと知りたいと思う方いらっしゃれば、大学や地域の図書館にあるかと思うので、是非一度手に取ってみることをお勧めする。 ●内容と作品の分類 本作品の内容を簡単な言葉で記すならば、平安中期を舞台に、朝廷と清和源氏が中心に描かれた動乱の記録である。物語は、第一話が「源家濫觴事」というタイトルから分かるように、源氏の発生から始まり、その後二百年間の数