記事:春秋社 西田幾多郎 出典:Wikimedia Commons (public domain) 書籍情報はこちら 絶対矛盾的自己同一という謎 私事で恐縮だが、私は西田幾多郎の代名詞ともいうべき「絶対矛盾的自己同一」という言葉を、なぜか中学生のころには知っていた。しかし、その意味を突きつめて考えることもなく、高校の倫理の授業でも西田に特に興味を持つことはなかった。教科書には載っていたから何か習ったはずだが何ひとつ覚えていない。 この言葉と思わぬ再会を果たしたのは、ある学会を見学したときのことだった。ずいぶん昔のことだから記憶があいまいで、状況を正確に記述できないのだが、とにかく誰かが自由意志の問題について発表したのである。 自由意志の問題を大ざっぱに説明すると、この宇宙の現象が因果的に決定されているなら、自由意志は存在しえないのではないかという問いである。たとえば脳は原子で構成されており