米作家リディア・デイヴィスの長編。彼女はいぜんに『ほとんど記憶のない女』という短編集をだしていますが、今回は長編。とてもすばらしい小説でした。失恋した女性の心理が、錯綜や混乱も含めてきわめてリアルに描かれていて、読み進めるのが苦しくなってしまうほどだった。誰かを失い、相手の不在に耐えながら、その人はもういないという事実に自分を慣れさせていく「喪の作業」についての物語として読みました。人を失うとはまさにこのような経験なのだと納得する。訳者は岸本佐知子さん。 大切な誰かを失ったとき、われわれは果てのない思考の反復に陥る。愛する者の喪失によって、心は千々に乱れるほかない。相手のことを考え、相手の残した言葉を考え、なぜ彼/彼女は去ってしまったのだろうと理由を推測し、自分の落ち度を検証し、お互いの非を比較し、怒りや屈辱を感じ、不安と孤立感にさいなまれ、相手の美点をあらためておもい起こし、幸福だった瞬