コヘレトの言葉は、聖書の中でも不思議な書である。これが書かれたのは前200年前後とされている。これよりやや時代が下るシラ書の作者も知恵の書の作者もコヘレトの言葉を知っている。実際に正典に入れられたのは、紀元後96年という遅い時期であるが、紀元前1世紀には、コヘレトの言葉は、すでに正典に近い評価が与えられていたようである。作者は、エルサレムの神殿近くに住む富裕で身分の高い老人であり、家族のいない孤独な人であったらしい。「コヘレト」というのは、「集会で語る者」を意味する女性名詞である。しかし、作者が男性であることは、「エルサレムの王、ダビデの子」という冒頭の言葉からも分かる。このタイトルから、この書はソロモン王の作であると伝えられてきたが、この説に疑義を呈したのはルターが最初らしい。 この書には、一貫してある種の無常観が流れていて、このことが、コヘレトの言葉を聖書中でも特異な存在にしている。