本研究は、福島第一原発事故後、間もない時期に出版された、一般読者向けの書籍5冊を対象として、その内容を分析し、科学コミュニケーションが科学的事実や科学者組織について、詳細な科学的知識を持たない人たちに伝達する際の問題点を議論したものである。まず焦点を当てたのが、現在、科学的に正しい見解が定まっていないと思われる、低線量放射線による被ばくの危険性に関する議論、および、危険閾についてのガイドラインを提出している組織である「ICRP」(International Commission on Radiological Protection)の信頼性を操作するような記述である。そこでは、科学的な論争における重要な論争点が提示されておらず、また、執筆者の立場により、ICRPの信頼性を高めたり貶めたりするような記述が恣意的になされていることが明らかとなった。このように、科学的論争を、科学的事実に関する議