街の人生 [著]岸政彦 著者の岸政彦は、前著『同化と他者化』において、丁寧な聞き取りと見事な分析で戦後沖縄の社会を浮き彫りにした、いま最も注目すべき社会学者だ。最新作『街の人生』は、実にユーモラスな一冊に仕上がっている。 本書の構成はとてもシンプルだ。外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害の女性、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスの男性の5人の生い立ちを聞き取り、インタビューの模様をほぼそのまま掲載するというもの。分析らしいものはほとんど加えられない。にも関わらず本書は、読み終えた者の社会認識を改めさせる力を持っている。 「我々が空想で描いて見る世界よりも、隠れた現実の方が遥(はる)かに物深い」——。本書冒頭では、柳田国男『山の人生』のこのような一節が紹介されている。『山の人生』は、「山へ入って還って来なかった人間」や山間部で生きる少数者たちの逸話を聞き取った柳田の初期作品。社会の周縁を漂泊