ナデルは肩をふるわせ拳を握りしめると、「若者の使命を果たそう」 とつぶやいてから、患者もまばらな歯科クリニックのロビーに入っていった。受け付けの女性から電話番号を聞き出すためである。 女性に電話番号を聞くことはどんな国であれ若者にとって大きな関心事である。しかし宗教上の理由からあらゆる場面で男女が厳重に分離されているサウジアラビアでは、男性が親族以外の女性に話しかけることは即逮捕されることを意味し、場合によっては鞭打ちを科されたりもする。 そんなサウジのルールよりもっとナデルが恐れているのは、従兄弟のエナドにこの行為が見つかることである。ナデルはエナドの17才になる妹のサラと婚約しているのだ。ナデルは 「エナドには絶対に言わないでください。彼に殺されてしまう」 と言った。 ナデルがクリニックに入った時、すでに太陽は傾いていた。中に入ると、ナデルの決心は急速にしぼんでいった。肩を落とし、震え
アシールの家のリビングルームで行われたダンスパーティーは最高潮を迎えていた。集まった女友達は20人以上。みんな10代後半だ。アシールは母親と一緒に忙しそうにお茶とデーツ (ナツメヤシ) をふるまっていた。半分の女の子たちは、ごてごてに装飾されたテーブルと派手なティッシュ箱を前に大げさなドレープのソファーに腰掛けながら、自然と体を小刻みに動かしていた。先ほどまで彼女たちを頭からつま先まで覆っていたアバーヤ (黒い外套) は脱ぎ捨てられ、イスの上に乱雑に積まれていた。 急に音楽が止まり、18才のアリアがおずおずとみんなの前に進み出た。「みんな!、伝えたいことがあるの…」 ハイヒールに体をよろめかせながらアリアは言った。ほんの少し間をおいてから、そうして今度は一気に早口でしゃべった。「私、婚約したの!」 リビングルームに歓声があがった。まるで悲鳴のようなみんなの声を聞くと、他の子がそうするように
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