人間学としての妖怪学を求めて (文・小松和彦) 1994年に起こった怪異・妖怪ブーム このたび講談社学術文庫化された『妖怪学新考』を最初に出版した1994年は、振り返って見ると、怪異・妖怪文化にとって特記すべき年であった。 その年の3月に、今では妖怪文化研究者必読の一冊となっている田中貴子『百鬼夜行の見える都市』(新曜社)が刊行され、7月には空前の安倍晴明・陰陽師ブームの火付け役となった岡野玲子の『陰陽師』(原作夢枕獏、スコラ)の単行本第一巻が、さらに9月には妖怪に素材を求めた推理小説作家として現在大活躍している京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥の夏』(講談社)が刊行されている。 多摩丘陵の開発を進める人間に「化け学」を駆使して挑戦する狸たちを描いた高畑勲監督作品『平成狸合戦ぽんぽこ』が公開されたのも、この年の夏であった。そして、この頃から毎年のように日本各地の博物館や美術館で、妖怪画を中心とし