私にとって、自分の父はいつもあこがれの存在です。 あこがれが強いからこそ、かなり長い間抵抗したり反抗していた時期もあったのですが、そもそも私にそうした気持ちを起こさせたのが父の本棚でした。 学生時代は一日一冊の読書をしていたという父の書棚には和辻哲郎の全集や、珍しい稀覯本、海外の小説や詩集、そして父の生きた時代を反映した思想書が並んでいます。最近見かけるようなパラパラとめくっているうちに半時間で読めるような本ではありません。小さな旧字体の活字が一杯に詰まっていて、一つ一つに丁寧に手で書皮がつけられている本は少年時代の私に強い印象を残しました。 「自分もいつかこんな本棚を作る」私にこうした思いを抱かせ、知的なものへの渇望を与えてくれたものこそ、この本棚だったのです。しかしその渇望は、思い切り間違った方向に私を導きました。 自分の本棚との出会い 大学生から大学院生時代の大半、私は生活費のほとん