約200年前にアメリカで出版された、奴隷少女の回顧録『ある奴隷少女に起こった出来事』(ハリエット・アン・ジェイコブズ著/堀越ゆき訳/新潮文庫)が、いま、国内外で注目を集めている。 19世紀にアメリカ南部のノースカロライナ州で奴隷として生まれた少女によって綴られたこの「手記」は、あまりに過酷で壮絶、そしてドラマティックな内容であることから、本国のアメリカでも、出版から1世紀以上にわたって「白人著者による創作=小説」と見なされ、忘れ去られていた。 ところが1987年、その評価は一変する。ある歴史学者の調査によって、筆者は実在した奴隷少女で、記された驚くべき体験のすべてが事実であることが証明されたのだ。それにより、同書は「奴隷文学、アメリカ史、女性史というカテゴリを超えた読者」(訳者あとがき)から絶大な支持を集め、同時に全米で作品の再評価を求める機運が高まったことで、一躍ベストセラーの仲間入りを