ルソーの主著、『人間不平等起源論』と『言語起源論』。その2冊が合本になっていて互いに参照もできる、お得な新訳が出た。 これを読むとルソーは、ホッブズやロック、アダム・スミス、さらにはヘーゲル、マルクスと呼応するような仕事をしていたのだとよくわかる。直接の先行業績はホッブズ『リヴァイアサン』、《万人の万人に対する戦争》だ。ホッブズが理詰めで自然状態なるものを想定し、理性と権利をもつゆえに争いあう人間の宿命を論じたのに対し、ルソーの論述はもっと想像豊かに、原初の人間の姿を物語のように描き出す。新大陸のインディアンの生活ぶりがつぶさに伝えられるようになったのも、ヒントになったかもしれない。 人間は最初、ばらばらに暮らして争いも少なく、結婚は兄妹同士でしていた。(レヴィ=ストロースはたぶんこれを意識して、近親相姦(そうかん)禁忌を出発点にする構造主義の親族理論を唱えたのだ)。憐(あわ)れみの情は自