ストックホルム中心街のマンションから引っ越しをする時のことだ。一冊のほこりまみれのファイルが天井裏から見つかった。 表紙のほこりを吹き飛ばしてファイルを開いてみるとA4サイズのコピー用紙がパサパサと抜け落ちてきた。そのコピー用紙もザラザラとしてほこりっぽかった。随分と年季が入っているようだ。 最初に目に入った用紙からは、 「最後の棲家(すみか)」という文字と、その後に続く縦書きの文章が見えた。 引っ越しの掃除途中であったにもかかわらず私はその文章に没頭してしまった。 「巧い!」 短編小説であった。 その小説を書いた方の名前は記憶の奥から陥落しているが、しかしお会いしたことはあるはずだ。 そしてその小説を一読して批評したこともあるはずである。 当時の私にどのような批評が出来たのかも記憶にはないが二十年以上経った今読んでみても「巧い」という感想しか出ない。 ひとさまの小説なのでプロットの詳細は