<世間をひろく見渡すに、欲で商いをする者はたとえ成功しても小さくしか成功せず、かりに大きく成功してもすぐほろぶ>。司馬遼太郎さんの小説『菜の花の沖』のモデルである江戸後期の豪商高田屋嘉兵衛は、「欲」と「利」の違いを配下の者たちに言い聞かせてきたという▼利を追うのは商人の本能だが、我欲が強ければ目が曇る。淡路島の貧しい農民から廻船(かいせん)業者に。やがて幕府の「蝦夷御用船頭」に任じられ、北海道開拓の礎を築いた男の戒めだ▼我欲で目が曇っていないか、と電力会社の姿勢に思う。東京電力や関西電力が原発再稼働に固執するのは、廃炉によって発電所の資産がゼロになり、債務超過に陥るのを恐れているからだ。なのに「電力不足」ばかり言い募る▼関電の原発の比率は約五割。地震列島でそこまで比率を高めたのは経営判断の誤りだろう。その責任に頬かぶりし、計画停電を持ち出して利用者を脅す姿は醜悪だ▼東電の再建策には再稼働を