ナポレオンである。フランス革命後の混乱の中でその軍事的才能を認められて民衆の支持を受けて世襲皇帝にまで上り詰め、列強を次々と降して欧州の大半を版図とした帝国を建設し、歴史上、近世と近代とを画した一大転機を作った、栄光と没落とで人々のロマンを掻き立てる不世出の英雄として、半ば神話化して何度も何度も語り継がれてきた。余りに人のロマンを掻き立てる生涯ゆえに、目がくらんで、歴史上のナポレオン帝国の実態は見えにくくなっている。 本書はこれまでのナポレオン研究を精査し、ナポレオン帝国の現実の姿を丁寧に概説した非常に手堅い一冊である。とても読み応えがあって、素晴らしい出来だった。岩波のヨーロッパ史入門シリーズはコンパクトかつ本格的な内容の本が多いけど、その中でも屈指の一冊だと思う。 序論でこれまでの研究史が総覧されているが、それら様々な研究史を踏まえて著者は本書の目的をこう整理している。 『・・・それゆ
![「ナポレオン帝国 (ヨーロッパ史入門)」ジェフリー・エリス 著](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/a1ef83032e3242fdeef93c07c91edc8039eaa66a/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcall-of-history.com%2Fwp-content%2Fuploads%2F2014%2F09%2F51yiEf4Ho5L.jpg)