うちのコロッケは美味しい。 肉やたまねぎ、しいたけやにんじんなどを炒めた具を、ジャガイモと同量くらい入れる。 味はしっかりつけるので、俵型に丸めるの手伝いながら具だけをつまみ食いしたりした。 母の作るコロッケは美味しかった。 だから、コロッケは、あまり魅力のない食べ物だと言われて、母との思い出を否定されたような感じがして、とても悲しくなった。 コロッケに限らず、母の作る料理はおいしかった。 自分で料理をするときは、自然にその味を真似るようになった。 コロッケも、ほうれんそうのごまあえも、すき焼きも、かぼちゃを炊いたやつも、白菜と春雨のスープも、いまでは母と同じ味をつくれる。 母はいま入院している。 残された時間を有意義に過ごすために、もう薬での治療はやめた。 母はがんばっている。 先週末はやばくて、遠くに住んでいる兄と僕は呼び出された。 母の手を握りながら、がんばろうねって何度も言った。